Avacus

AVACUSの業務改善命令について

2020年12月24日、暗号資産でAmazonのお買い物や、クラウドソーシング、送金機能付きSNS、フリマを利用できるサービス『Avacus』を運営するAvacus株式会社が、東海財務局より業務改善命令を受けたことを発表した。今回の業務改善命令によるサービス停止等はなく通常通りサービスを利用できるとのことです。

 

目次

業務改善命令の内容

業務改善命令の内容は以下の通りです。

(1)適正かつ確実な業務運営を確保するための以下の対応
ⅰ 経営管理態勢の構築
ⅱ マネー・ローンダリング及びテロ資金供与に係るリスク管理態勢の構築
(2)上記(1)に関する業務改善計画を令和3年1月25日までに、書面で提出
(3)業務改善計画の実施完了までの間、1か月毎の進捗及び実施状況を翌月10日までに、書面で報告

公式の発表によれば「ⅰ, ⅱ どちらについても現在までの経営・管理体制につきまして包み隠さず情報を開示して参りましたが、今回改めて東海財務局より言及をお受け致しました次第です。」と書かれており、対応はしていたものの求められているレベルに達しなかったようである。

業務改善命令の発出理由

ここからは業務改善命令を発出した理由部分について詳しくみていきたい。

令和2年11月27日付の報告徴収命令に対する報告を期限までに行っていない

※報告徴求命令とは、金融庁が金融機関や金融商品取引業者に対して、業務や財務の状況に関する報告や資料の提出を命じ、検査をすること。不正な取引の疑いや債務超過による支払い不能の恐れなど、公益や投資者保護のために必要と認められる場合に行われるものである。(出典:小学館デジタル大辞泉)

Avacus株式会社は5月に暗号資産交換業の届け出を提出しており、10月末より正式に申請を行い登録に向けて進んでいたとのこと。Avacus公式発表の経緯によれば、「いずれも現在までの経営・管理体制につきまして包み隠さず情報開示をしてきたが改めて言及を受けた」と報告していることからも、報告徴求命令を無視したわけではなく対応はしていたが求められる報告や資料を全て揃えるのには期限が間に合わなかったということのようだ。

クラファンを行い経営強化に努めていた姿勢を見ると、Avacusとしては期日が過ぎた後も情報開示をしていたさなかに予想外に行政処分がくだされたということだったのかもしれません。(後述:行政処分のタイミング)

サービス上、取引の具合などがユーザーの目にもわりと見えやすく、売り上げ的に後ろ暗いものがあるように思えないAvacusにとっては隠したいような資料があるというのも考えにくく、期日に間に合わなかった報告や資料というのも、おそらく揃えるのが困難なデータ等だったのではないかと推測する。

取引所をサービスの主としているわけではなく、全く異なる事業を運営しているAvacusのような事業者が交換業取得の審査を受けるということはあまり例を聞きません。そういった事業者に対しても慣例的に今まで通り従来の取引所に要求するようなデータをそのまま要求した可能性も考えられます。

技術力があるAvacusが提出に手こずるようなデータとなれば、元よりサービス運用には不必要でシステム設計上組み込んでいないようなデータの類かもしれません。その場合、当然それらを揃えるのは決して簡単な作業にはならず、もし期日についても取引所のシステム設計を前提としたようなものが設定されていれば間に合わないということも起こりえる。

しかし、それらのことは説明すれば理解を得られるはず(だと信じたい)なので期日を過ぎた直後に行政処分をされていないところをみても期限を延長するなり何かしら協議をしていた可能性もあります。

ドラマ半沢直樹に出てくる金融庁ばりに嫌がらせ全開で、大量の資料を要求をして、そのひとつでも欠けたら行政処分するといった横暴をされたというわけではないと思うが、慣例の審査過程の中で、前例の少ない新しいサービス事業者として審査を受けた時に不幸なことが起きてしまったという話のような気もします。

同年8月7日付の報告徴収命令等により確認したところ、犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)第4条に定める取引時確認を行っていないこと、同法第6条に定める確認記録の作成を行っていない等の法令違反行為及びマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドラインに係る不十分な措置が認められる

二つ目の指摘は、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策についてガイドラインに乗っ取った対策をしていないというものです。国が用意したガイドラインに従ってKYC(身分確認)を実装してくださいということのようです。

AvacusにはたしかにKYC(身分確認)がまだ実装されていません。8月時点で即時に行政処分がくだっていないことからして、もしかすると両者の間でなんらかの協議が進められていたのかもしれません。

KYCの導入はユーザー全員に影響があり、個人情報を預かるという意味での運営側の負担だけでなく、ユーザー側にも負担がかかるような大きな仕様変更となることもあり、慎重に検討がされていると想像します。とはいえ通例であれば約半年くらいは猶予期間があってもよさそうなところで、この点からもこの業務改善命令の発出のタイミングが早すぎる印象を持った。(後述:行政処分のタイミング)

代表が謝罪 経緯や補足説明

業務改善命令を受けて代表の松田が自身のブログで報告を行った

Avacusは実務特化の少数精鋭体制を早急に整える必要があったが、届出時以降予想以上に実務がさらに増えた為、求められるような体制構築が間に合わなかったのが実情だという。今後、管理部門など必要な人員の誘致配置を早急に行うとのことです。

これら人員確保のためにも資金調達はAvacusにとって必要不可欠であったが、行政処分というものを大変重く受け止めたAvacusは先日クラファンにより集めた6000万円の支援を断ることを決定した。業務改善をするための資金調達を、業務改善命令によって閉ざされるというなんとも皮肉な捻じれが発生してしまった。

募っていた出資を自ら辞退

前述の通り、この件を重く受け止めたAvacus株式会社は、先日大きな反響を呼び300人以上の投資家に支持されて、わずか一時間余りで6000万円の支援を集めたとされるクラファンによる出資を自ら辞退することを発表

12月17日(水)FUNDINNOにおいてクラウドファンディングを実施
12月22日(火)東海財務局より業務改善命令の予告を受ける
12月24日(木)東海財務局より業務改善命令を受ける
12月24日(木)FUNDINNOにおいてクラウドファンディングを自ら辞退

行政処分の一報を聞き、報告徴収命令を受けていることを隠してクラファンをしたような印象をもった人も一部いたようだが、そもそも募集内容に審査を受けていることは明記されていたので報告徴収命令を受けていることは当然でもあり、そのあたりは投資家もわかっていたようで、(あくまで私の見える範囲内でしかないが)そこまで大きな混乱はないように見えた。

それよりもAvacusの掲げる「暗号資産が投機目的でしか機能していない暗号資産の本来の利便性を取り戻す」といった取り組みに賛同した人が多かっただけに、この出資がなくなったことに対しての落胆の声も多かった。

しかしながら、Avacusへの支援の形は何もクラファンという形に縛られる必要はない。支援の気持ちがある者は今後も色々な形でより一歩深くAvacusな世界に足を踏み入れていくと面白いかもしれない。

マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策について

マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策については国際的に基準が制定されるなど意識が高まっており日本の金融庁も対策に力を入れていて、銀行や金融機関のみならず、仮想通貨交換業者にもそれらを求めている。

取引所のようにユーザーから資産を預かりその金の交換をサービスの主として利益を生んでいる事業がこのような体制を整える必要があるのは然るべきと思えるが、取引所でもないようなサービスまでもがこれらをするのは利益とコストが完全にわりに合わない。

コスト云々ではなく、そういうルールだからと言えば話は簡単だが、それではある種の思考停止のようだ。これは法令を遵守しなくても良いという話ではなく本質がずれてはいけないという私の勝手な問題提起だ。

そもそもマネーロンダリングやテロ資金供与の対策としてそれを行う妥当性も乏しいなかではその対応を迫られることに心が折れる事業者も多い。実際の申請をしたが取りやめた事業者の数も多く、やはり交換業の取得はスタートアップ企業には非常にハードルが高いのは間違いない。

結局のところ、資金力がある企業のみがクリアできるようなこの認可のしくみは、サトシナカモトが描いた理想の未来にはどうしてもたどり着かせたくない力が働いているかのようだ。

Avacusに話を戻して考えてみると、そもそもこのサービスに単にガイドラインに従ってKYCを導入することが本当にマネーロンダリングやテロ資金供与対策の最善の手になるのかよくわかりません。

例えばAvacusPayだと一日の送金上限が決まっていて、多くの資金を一度に動かすことは現状できません。回数の制限もあるはずなのでマネーロンダリングのようなことはしにくいようにも思います。また何かしら異常を検知し、不正なユーザーを見つける仕組みは他にもいくらでも考えつく気がします。小規模なサービスまで、わざわざ犯罪者に合わせてユーザー全員にKYCをさせる必要が本当にあるのだろうか。

ある有名人がinstagramでなりすまし被害にあったが、なりすましの方が本人認定をされて、自分がなりすまし認定されてしまったといったような滑稽な話も聞く。悪人の手にかかればKYCそのものが意味のないものになる可能性もありそうです。

また、マネロンはもちろん問題ですが特定の企業が個人情報をとりまくるということも同じくらい問題です。マイナンバーカードですらその普及率は低く、個人情報の提示を嫌がる国民が果たしてをKYCを受け入れるかというとかなり怪しい。

銀行のように自分のお金を動かすだけでも高い手数料を取らた時代は終わり、これからは世界のどこにでも一瞬で、しかも手数料安く、お金を送れるようになるという画期的な技術が出来ました。ただし使うためには、まず身分証明や住所確認が必要です。受け取る側も身分証明と住所確認も必要ですとなれば、新技術の利便性を殺しています。

直接この件に対しての言及だったかは忘れてしまったが「イノベーションとルール形成 ~暗号資産にみるルール形成~」というテーマの対談の中で、元内閣府副大臣の方も、間違ったルール設定によりイノベーションが阻害されてはいけないといた趣旨のことを述べていた。国の役人の中でもそういった認識を持っている人はいるにはいるが、それらが大きな動きとなって現行の不完全なルールをスピード感もって変えるほどの動きにはまだまだなりにくいのが現状だ。

国は目下のコロナ対策に奔走しているかもしれないが、実はブロックチェーン技術をうまく生かそうとすれば、その技術がコロナによる失業者の窮地を救える可能性もある。給付金ですらスムーズな配布ができないIT遅れの日本ではそれは絵空事のように聞こえるかもしれないが、気概をもった誰かが大きく舵を切れば案外すぐに変わるようなものだったりするのかもしれないと脱ハンコの流れをみていて思うのは単なる希望的観測だろうか。

行政処分のタイミングについて

情報開示をしていたAvacusが急な形で行政処分を受けたことにやや疑問が浮かぶ。

財務局がAvacusがクラファンを行うことに気付かないわけはなく、もしかしたら事前に伝えていたとも考えられる。クラファンを行うこと自体、経営管理態勢の構築を目指すAvacusにとっては問題のない行為のように思えるので、それらを把握し黙認していたが、まさかここまで大きな反響を呼ぶことは予想外の出来事でだったこともあり、審査の途中ながら何かトラブルが起きる前に行政処分を慌てて下したというのがことの顛末のような匂いがします。

これはあくまで仮説であり、単に元々処分しようと思っていたタイミングを迎えただけという可能性も十分あります。どちらにせよ改善命令の発出の理由を見る限り、この改善命令はいつでも切れるカードであったように思えます。

クラファンで注目を集めていた絶妙なタイミングでの発出は、投資家や支援者を逆に混乱を生むことになったが、仮にクラファンでの支援を受けた後での処分だった方がタイミングとしては最悪だったかもしれず、そう考えれば”結果として”このタイミングで良かったとも言えるのかもしれない。

 

編集部よりヒトコト

Avacusが行政処分を受けたという一報にギョッとした。詳しくない人からすれば、行政処分という言葉を聞いて、ビビったり、あらぬ誤解をする人もでてくるのは当然だ。冷静に詳細を見ていくなかでそれら不安は解消されていった。

一瞬で6000万円を集めて一瞬でその6000万円を手放したAvacusの物語は数年後どのように語られているだろうか。交換業取得に悪戦苦闘するAvacusだが、それらノウハウを着実に溜めながら業界をリードする存在になっていくのだろうか。

Avacusが今回の行政処分をしっかりと受け止め、さらなる飛躍することを期待し、今後もAvacusをただただ真摯に応援していきたい。



引用元:
東海財務局「Avacus株式会社に対する行政処分について」
AVACUS公式「当社に対する業務改善命令に関するお知らせ」

参考:
業務改善命令に関するお知らせ
資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)第六十三条の十五 立入検査等
犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)第二章 第四条、第六条
マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策 に関するガイドライン

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