法律

ここがヤバイよ 改正資金決済法

情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律(通称=改正資金決済法)が令和元年5月31日に成立されました。
金融庁 | 第198回国会における金融良関連法律案

目次

この法律に対する新聞各社の見出し

【読売新聞】仮想通貨、「暗号資産」に…ネット遮断を義務化
【朝日新聞】健全な市場整備へ業界期待 「仮想通貨」から「暗号資産」へ法改正
【毎日新聞】仮想通貨 呼称「暗号資産」に 改正法成立
【日本経済新聞】仮想通貨の名称、「暗号資産」に 改正資金決済法が成立

この話題について、各新聞社の報道のタイトルだけみると、「仮想通貨」という名称が「暗号資産」って名称に変わったんだね、という程度にしか思わないかもしれません。

なんで名称が変わった?

従来、国際的には仮想通貨は「Crypto Currency(暗号通貨)」と呼ばれていましたが、2018年の国際会議(Gサミット)の場で「暗号通貨は通貨としての特性を欠く」と厳しく言及され、国際会議で初めて「Crypto Currency(暗号通貨)」ではなく「(Crypto Assets)暗号資産」と表現されました。この国際的な流れを汲んで日本もそれに合わせた形になります。

我々は、暗号資産の基礎となる技術を含む技術革新が、金融システムの効率性と包摂性及びより広く経済を改善する可能性を有していることを認識する。しかしながら、暗号資産は実際、消費者及び投資家保護、市場の健全性、脱税、マネーロンダリング、並びにテロ資金供与に関する問題を提起する。

引用:財務省 | 20か国財務大臣・中央銀行総裁会議声明

この国際会議では、マネーロンダリングや、テロ資金に関する問題が指摘されている。
日本ではコインチェックによる不正流出問題などもあり、とくに金融庁の消費者保護の観点から規制強化の流れは強くなってしまった。

しかし、実はこの法律、名称が変わっただけではありません。
なかなか残念な内容も含まれています。

この法律のここがヤバイ!!

『暗号資産の交換・管理に関する業務への対応』
 暗号資産交換業者に対し、顧客の暗号資産は、原則として 信頼性の高い方法(コールドウォレット等)で管理することを 義務付け それ以外の方法で管理する場合には、別途、見合いの弁済 原資(同種・同量の暗号資産)を保持することを義務付け
 暗号資産交換業者に対し、広告・勧誘規制を整備
 暗号資産の管理のみを行う業者(カストディ業者)に対し、暗号 資産交換業規制のうち暗号資産の管理に関する規制を適用

引用:情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律|概要|金融庁

ここに書かれている一番したの項目により、これにより今まで取引所など交換業を行う業者に対してのみにあった規制が、カストディ業者についても交換業規制が適用することになりました。

※カストディ(custody)は、「保管」「預かり」を意味します。サービス業者がユーザーの資産を預かる業者はカストディ業者と呼ばれます。

カストディ業の規制

ブロックチェーン事業をやりたかったら、交換業登録という費用も時間も莫大にかかる登録をしろというのです。これは、スタートアップ企業にとってはかなり高いハードルとなります。

消費者保護の観点で作られたものではあるのですが、
この規制はスタートアップ企業などイノベーションの芽を潰すような規制にもなってしまいました。
これ以上リスクを追えない業者は、撤退せざるを得ません。

これを受けて続々とサービスに影響が…

* tipmona サービス休止を発表
* tipnem サービス休止を発表
* valu ビットコインからJPYへの転換を議論中
* Avacus サービスを継続していくための道を模索

ITで世界に遅れをとった日本。
ブロックチェーンでもこうして世界競争から負ける道を選んでしまいました。
日本からは「取引所」というサービスしか生まれませんでしたー!というダサいことになりかねません。

「取引所」という事業には先進性がない

暗号通貨の売買をする場を提供している「取引所」は、もちろん意義があり、価値があることだとは思います。
ただ、昔からある株の取引所みたいなことを暗号通貨でやったに過ぎず、その事業自体に新しさはありません。どうせやるなら、交換事業も暗号通貨の思想を取り入れて分散化させるとかした方がいいのになとは思ってしまいます。
(取引所の中には、そういった新しい取引所もあります)

世の中の色々な概念を変えるかもしれない、IT革命以来の革命と言われているブロックチェーン技術で、わざわざ既存にあるサービスと同じようなものを作って、結局そこで手数料とるとなったら銀行とやってること同じで、搾取の構造に変わりがありません。それってブロックチェーンの思想と離れています。

コインチェックが580億円の不正送金事件が起きても「補填」しますと言えてしまうぐらいに「取引所」という事業は儲かるのかもしれませんが、儲かる事業には目もくれず、新しい価値を世の中に生み出そうと新しいことに挑戦していくベンチャー企業には頑張ってほしいという想いから編集部もそういったサービスを追いかけてきました。

規制が必ずしも悪ではない

規制が進むのは悪いことばかりではありません。
ある程度の法律が整備されることでアウトかセーフのラインがはっきりし会社として投資しやすくなるという側面もあります。それにより、その分野の技術が進むこともあるでしょう。

ただし、そのためにはその規則を作る人がイノベーションをなるべく阻害しない方向で規則を作る必要があります。つまり現状の日本では、そういった柔軟な規則を作れる人がいないということなのかもしれません。作れる人がいないというか、作れる環境にないのかもしれません。

人口減少が続く日本。その日本を救うものがあるとすれば、それはイノベーションだというのは衆目の一致するところだ。大学改革が叫ばれるのも、そこに一つの理由がある。しかしイノベーションを促進するのは簡単ではない。自由な研究と豊富な資金、それに新しい技術に対応した迅速なルール作り。とくにそのルール作りのプロセスにもイノベーションを起こすことができるかどうか。イノベーション競争はレギュレーション競争でもある。ここが世界の中でガラパゴス化しないでやっていけるかどうかが、日本の将来の分かれ道なるのかもしれない。

引用 | 規制なくして技術革新なし 加納 信吾

この記事がいつ頃かかれた記事かわかりませんでしたが、こちらの記事で書かれている通り、たしかにルール作りのプロセスにもイノベーションが必要だったのかもしれません。
現状の日本でそのルール作りのプロセスにイノベーションは起きておらず、今回のようなことが起きています。

他の省庁なりがもっと口を出してほしいところでしたが、経済産業省は今更キャッシュレス云々言ってるくらいですし、総務省は今更統一QR云々言っているくらいですから…(以下略

何を重視するかという問題で、イノベーションより消費者保護が優先されたということですし、ルール作りに関与したわけでもなく、ルール作りの難しさについて知らない私が、決まったことについて今更文句をいっても仕方がありません。これからどうしたらいいのかを前向きに考えていきたいと思う。

日本オワタ?我々は何ができる?

規制により、新しい価値を世の中に生みだそうと挑戦していくベンチャー企業が潰されそうになっている現状で我々には何ができるのでしょうか?

有識者が規制緩和を訴えるのもいいでしょう。ただ、ブロックチェーン界隈の有識者のほとんどは、この規制のここがやばいってのはわりと前から言っていましたよね。それでも、間違った方向に進んでしまったわけですから、もう少し違うアプローチをしなければいけないかもしれません。

消費者が優先されるのであれば、消費者そのものが、その新しいベンチャー系のサービスを積極的に使って、その圧倒的な必要性を訴えてみるのはどうでしょうか?

訴えるというと大げさになりますが、この新しい技術の黎明期を大いに楽しみ、ごく自然に新しい文化として取り込み、圧倒的に生活に馴染ませてしまうと良いかもしれません。未来の可能性を想像できていない方々に、新しい世界や文化を見せつけてやればいいと思います。

編集部よりヒトコト

カストディ業者にまで規制をかける法律は正直ナンセンス。

新しいことをやれる環境が日本にはなく、優秀なエンジニアは次々と日本を去っています。私のまわりでもそれが顕著です。編集部にも「日本オワタ」と落胆の空気が流れました。

ただ、日本が大好きな編集長は、もうこの状況を「楽しめ」と言います。

そう感じさせてくれたのは、日本の規制などお構い無しにガンガン研究を進めている技術最前線の人たちの姿でした。技術革新最前線の人たちは、みんな楽しそうなのです。新しい革命にワクワクしていて日々情熱を燃やしています。

この記事を読んでいてくれてる人もそうですが、新しい技術に興味をもったり、新しいサービスに興味をもったり、そういう高いアンテナを持っている方々は、きっと色々なことを楽しめる人だと思います。そういう人たちが、圧倒的に楽しんで暗号通貨サービスを触ったり、新しい技術に触れることで、何かちょっとしたことをきっかけに何かが変わるかもしれません。

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